MAB計画の特徴

MAB計画は、UNESCOが1970年から始めた保全と利用の調和を図る国際的な取り組みです。特に、手付かずの自然を守ることが原則となる世界自然遺産と違い、日本が主張している「自然との共生」の理念にも合致します。

MAB計画の財産の一つは、ユネスコエコバーク(BR)が1995年セビリア戦略で掲げる核心・緩衝・移行地域というZoningです。これはMAB計画の経験が生み出した保全と利用の両立を図る知恵です。それ以前はこのZoningの3区分は必須ではなく、日本の4つのBR及び屋久島、白神、知床世界遺産はもどれも核心地域と緩衝地域*を持っています。つまり、MAB計画は以前から日本の世界自然遺産の手本となってきたといえるでしょう。

世界に二つとない原生自然の希少価値を認知する趣旨の世界自然遺産の新規登録が極めて厳しくなりつつあるのに対し、ユネスコエコパークは海外では順調に登録地を増やし続けています。これは、世界各地で保全と利用の両立を図るという取り組みが進んでいるからです。この取り組みは、希少価値でなく、本来の人と自然のあり方そのものです。日本からも、地域の取り組み、国内での連携だけでなく、国際的な連携を図るには、MAB計画が絶好の舞台となります。MAB計画の経験と研究成果は国際的な財産であり、MAB計画には登録地の取り組みを世界と学びあう組織と人と地域の輪(地図)があります。

ユネスコエコパークに登録するには、候補地の自然の価値の記載だけでなく、地域にかかわる研究者、それを利用する地域の人々、地方行政府の日常的な活動が必要です。これも、法規制で保護する世界遺産と異なり、共同管理(Co-management)と呼ばれる法規制と自主管理の併用により、保全と利用の両立を図る取り組みが評価されます。

知床世界遺産では、2005年の登録時に政府が地元漁民に「遺産登録に伴う新たな規制を行わない」と約束し、審査したIUCNが海域の更なる保護を求めたのに対して、漁民が自ら禁漁区を拡大する措置をとりました。これは共同管理の典型例として国際的に紹介されました(Matsuda et al. 2009, Biol. Cons)。この知床の取り組みは、世界遺産というよりMABの理念に沿うものといえます。

国際的にも、世界危機遺産に指定されていたガラパゴスなど、世界遺産登録後にMAB/BRに登録した例があります。保全と利用の両立を図るには、世界遺産よりもMABが有効です。

2010年10月2日 松田裕之

*2012年6月改訂 日本ユネスコ国内委員会ではBuffer zoneの訳語を「緩衝地域」と定めました
*現在の説明はこちらを参照。